モリブデンは、体内の老廃物であるプリン体を尿酸に分解し排泄する働きがよく知られています。
他にも、有毒な亜硫酸イオンを無毒化したり、アルコール分解で生じる有毒なアセトアルデヒドを無毒化するなど、体内の有害な物質を排出する重要な役割を持つミネラルです。
また、糖質や脂質の代謝、鉄の利用促進にも関わっています。
そんなモリブデンの働きや多く含む食べ物、欠乏症や過剰症などについて簡単にまとめてみました。
モリブデンとは
モリブデンは成人の体内に約9mgほど存在します。
食品中のモリブデンは、胃と小腸から吸収され、血中を流れて肝臓や腎臓をはじめ、身体の各組織に運ばれます。
モリブデンは非常に吸収されやすいミネラルで、その吸収率は約90%ほどと見られています。
多く摂取しても吸収率が下がることはないですが、尿中への排泄によって体内量がコントロールされています。
モリブデンの働き
モリブデンの体内量は約9mgと少ないですが、多くの重要な働きをします。
1.最終老廃物への分解、有毒物質の無毒化
モリブデンはキサンチンオキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、亜硫酸オキシダーゼ等の酵素の補酵素として働きます。
キサンチンオキシダーゼ
体内活動により発生したプリン体などの老廃物を、最終老廃物である尿酸に分解(酸化)し、排泄するのを助ける働きがあります。
亜硫酸オキシダーゼ
亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、排出する働きがあります。これにより、体内のイオウを含む化合物の代謝から生じる有毒な亜硫酸イオンが無毒化されます。
アルデヒドオキシダーゼ
アルデヒドをカルボン酸に酸化します。この作用により、アルコールの分解過程で生じた有毒なアセトアルデヒドを無毒化します。
モリブデンはこれらの酵素の働きにより、体内の有害な老廃物を分解して無毒化した上で排泄するのを助けます。
2.糖質・脂質の代謝、鉄の利用促進
また、モリブデンは糖質・脂質の代謝を助けてエネルギーを生み出し、鉄の利用を高めて貧血を防ぎます。
そのため、鉄欠乏性貧血の人には欠かせないミネラルです。
モリブデンの欠乏症
なお、モリブデンは通常の食生活では欠乏しにくいミネラルですが、モリブデンを添加しない完全静脈栄養の患者では欠乏症を発症する可能性が指摘されています。
その症状として、尿中の尿酸および硫酸の減少、神経過敏、昏睡、頻脈、頻呼吸などがあります。
また、遺伝的にモリブデン補欠因子や亜硫酸オキシダーゼが欠損する症例では、体内に亜硫酸が蓄積し、脳の萎縮やけいれん、精神遅滞や水晶体異常などを生じ、多くは新生児の時点で死んでしまいます。
モリブデンの1日あたりの推奨量、耐容上限量
モリブデンの1日あたりの推奨量
18歳以上のモリブデンの1日あたりの推奨量および耐容上限量(μg)は、以下のとおりです。(1000μg=1mg、1000mg=1g)
男性
18~29歳 25 550
30~49歳 30 550
50~69歳 25 550
70歳以上 25 550
女性
18~29歳 20 450
30~49歳 25 450
50~69歳 25 450
70歳以上 20 450
(妊婦は付加量なし、授乳婦は+3)
左が推奨量、右が耐容上限量
詳しい表を以下に掲げます。
モリブデンと過剰症、耐容上限量
モリブデンはもともと必要量が少ない上、多めに摂取してもほとんどが尿中に排泄されるため、欠乏も過剰も起きにくいミネラルです。
モリブデンを過剰摂取すると、銅の排泄を促してしまい、銅の欠乏症を引き起こすおそれがあります。
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また、モリブデンの過剰摂取により、尿酸の代謝異常が起き、高尿酸血症や通風が引き起こされる可能性が指摘されていますが、現時点ではデータが少なく、科学的根拠は不十分とされています。
モリブデンを多く含む食品
モリブデンは大豆製品やレバー、穀類など、様々な食品に幅広く含まれます。
モリブデンを多く含む食品の、可食部100グラムあたりの含有量(μg)は以下のとおりです。(1000μg=1mg、1000mg=1g)
大豆(ブラジル産 乾)660
大豆(国産 乾燥)350
納豆 290
木綿豆腐 41
緑豆(全粒・乾)410
ソラマメ(全粒・乾)260
枝豆 240
焼き海苔 220
豚レバー 120
牛レバー 94
鶏レバー 82
玄米 64
蕎麦(生)25
ピーナッツ(生)88
アーモンド(フライ味付け)29
モリブデンの上手な摂り方
モリブデンは吸収されやすいミネラルで、しかも様々な食品に含まれています。
穀類や豆類の摂取量の多い日本人のモリブデンの1日平均摂取量は225μgで、推奨量(20~30μg程度)を優に超えています。
そのため、通常の食生活を心がけていれば、モリブデンが不足することはまずありません。
穀類や豆類、レバーや肉類などをしっかり摂っていれば、十分な量を摂取できます。
モリブデンの欠乏症・過剰症まとめ
モリブデンが欠乏したり過剰になったりすると、以下のような症状を引き起こします。
モリブデンの欠乏症
モリブデンが添加されていない完全静脈栄養の患者の場合
・神経過敏
・昏睡
・頻脈
・頻呼吸
遺伝的なモリブデン補欠因子や亜硫酸オキシダーゼの欠損の場合
・脳の萎縮
・けいれん
・精神遅滞
・水晶体異常
・新生児死亡
モリブデンの過剰症
高尿酸血症
通風
銅欠乏症
モリブデンまとめ
モリブデンについて、以下に簡潔にまとめます。
モリブデンの主な働き
プリン体の尿酸への分解、アルコールの無毒化、亜硫酸の無毒化、糖質や脂質の代謝、鉄の利用促進
モリブデンを多く含む食品
大豆製品、レバー、穀類など幅広い食品に含まれる。
大豆製品(大豆、納豆、豆腐など)
レバー(牛、豚、鶏など)
豆類(ソラマメ、枝豆など)
穀類(玄米、蕎麦など)
モリブデンの1日あたりの推奨量
18歳以上のモリブデンの1日あたりの推奨量(μg)(1000μg=1mg、1000mg=1g)
男性
18~29歳 25 550
30~49歳 30 550
50~69歳 25 550
70歳以上 25 550
女性
18~29歳 20 450
30~49歳 25 450
50~69歳 25 450
70歳以上 20 450
(妊婦は付加量なし、授乳婦は+3)
左が推奨量、右が耐容上限量
モリブデンを食べ物から上手に摂る方法
穀類、大豆製品、レバー、肉類など、通常の食品を幅広く摂取していれば、欠乏の心配はほとんどない。
↓↓各ビタミン・ミネラルの働き、多く含む食べ物や食べ方、欠乏症や過剰症などについて
主要(多量)ミネラル
カルシウムと骨、ビタミンD、エストロゲン
リンと骨、細胞膜、DNA、インスタント食品
マグネシウムと骨、心筋梗塞、生活習慣病
ナトリウムとむくみ、高血圧、カリウム、減塩対策
カリウムと高血圧、脳卒中、ナトリウム、腎臓
微量ミネラル
鉄分とヘム鉄、非ヘム鉄、不足の症状、女性の摂取量
亜鉛と味覚、成長、生殖機能、インスリン
銅と貧血、白髪、抜け毛、鉄や亜鉛との関係
マンガンと骨の成長、糖脂質代謝、性機能
ヨウ素と甲状腺ホルモン、乳幼児の発達
セレンと抗酸化作用、水銀やヒ素やカドミウムの毒性
クロムとインスリン、糖質・脂質代謝、発がん性
モリブデンとプリン体、尿酸、アルコール、貧血
脂溶性ビタミン
ビタミンAとβカロテン、抗酸化作用
ビタミンDと骨とカルシウム
ビタミンEと過酸化脂質と抗酸化作用
ビタミンKと骨と血液凝固と新生児
水溶性ビタミン
ビタミンB1とアルコール
ビタミンB2と脂質の代謝
ナイアシンとアルコール、トリプトファン
ビタミンB6とアミノ酸、つわり、月経前症候群
葉酸と妊娠、DNA、動脈硬化
ビタミンB12と葉酸の関係、欠乏症、消化吸収の特徴
パントテン酸と糖質・脂質の代謝、神経伝達、善玉コレステロール
ビオチンと卵白、アトピー、血糖値、胎児