必須アミノ酸は私たちの身体に欠かせないものです。食品のたんぱく質から摂取できますが、単にたくさん摂ればよいわけではなく、バランスが大事です。
食品に含まれるアミノ酸のバランスを表す指標に、「アミノ酸評点パターン」「アミノ酸スコア」と呼ばれるものがあります。また、そのバランスの重要性を分かりやすくたとえた「アミノ酸の桶の理論」というものがあります。
これらは一体どのようなものなのか、その計算方法や問題点について紹介したいと思います。
必須アミノ酸とは
必須アミノ酸とは、ヒトのたんぱく質を構成する20種類のアミノ酸のうち、体内で十分な量を合成することができず、食物から摂取しなければならないものをいいます。
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必須アミノ酸には9種類あり、それぞれバリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン(トレオニン)、メチオニン、リジン(リシン)、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンと呼ばれています。
必須アミノ酸には、神経の機能や肝機能の向上、子供の成長や発達、筋肉の強化や免疫力の向上、解毒作用、鎮痛作用など、様々な働きがあり、欠かせないものです。
アミノ酸評点パターンと良質たんぱく質
「良質たんぱく質」という言葉があります。
これはたんぱく質の中でも特に、人体に必要とされるアミノ酸の組成に近いものを指して言います。
1985年にFAO/WHO/UNUによって、たんぱく質1gあたり各アミノ酸がこれだけ含まれればよい、という基準が「アミノ酸評点パターン」として公表されました。
アミノ酸評点パターン
単位はmg/gたんぱく質、つまり食品中のたんぱく質1gあたりに含まれるべき理想的な量(mg)です。
アミノ酸 | 乳児 | 学齢期前 2~5歳 |
学齢期 10~12歳 |
成人 |
---|---|---|---|---|
ヒスチジン | 26 | 19 | 19 | 16 |
イソロイシン | 46 | 28 | 28 | 13 |
ロイシン | 93 | 66 | 44 | 19 |
リジン | 66 | 58 | 44 | 16 |
メチオニン+シスチン(含硫アミノ酸) | 42 | 25 | 22 | 17 |
フェニルアラニン+チロシン(芳香族アミノ酸) | 72 | 63 | 22 | 19 |
スレオニン | 43 | 34 | 28 | 9 |
トリプトファン | 17 | 11 | 9 | 5 |
バリン | 55 | 35 | 25 | 13 |
この表の意味は、たとえば成人の場合、食品に含まれるたんぱく質1gにつき、ヒスチジンが16mg、イソロイシンが13mg、ロイシンが19mg…以上含まれていれば理想的、ということです。
そして、そのような条件を満たすようなたんぱく質が「良質たんぱく質」になります。
各必須アミノ酸を多く含む食品
なお、それぞれのアミノ酸を多く含む食品は以下のとおりです。
アミノ酸 | 食品 |
---|---|
ヒスチジン | 鶏肉、ハム、チーズ、脱脂乳 |
イソロイシン | 牛肉、鶏肉、サケ、牛乳、チーズ |
ロイシン | 牛肉、ハム、牛乳、チーズ |
リジン | 魚介類、肉類、レバー、白花豆 |
含硫アミノ酸 | カツオ、牛乳、小麦 |
芳香族アミノ酸 | 肉類、魚介類、豆類 |
スレオニン | 鶏卵、スキムミルク、ゼラチン |
トリプトファン | チーズ、バナナ、卵黄、ピーナッツ |
バリン | 牛肉、レバー、牛乳、チーズ |
アミノ酸スコアと計算方法
アミノ酸スコアとは、各食品中のたんぱく質1g中に含まれる各必須アミノ酸が、評点パターンをどれくらい満たしているか(充足率)をパーセンテージで表したものです。
すべての必須アミノ酸がアミノ酸評点パターン以上に含まれていれば、その食品のアミノ酸スコアは100です。もしアミノ酸評点パターン未満しか含まれなければ、そのアミノ酸を制限アミノ酸といいます。
特に、パーセンテージが最も低いものを第一制限アミノ酸といい、その数値がその食品のアミノ酸スコアになります。
たとえば、精白米のたんぱく質1gにつき、35~6mg程度のリジン(リシン)が含まれます。一方、アミノ酸評点パターンによると、学童期前2~5歳の児童にとっては、58mg以上が望ましい含有量です。
したがって、精白米のリジン充足率は35~6÷58×100≒61%程度です。
精白米の必須アミノ酸の中ではこれがいちばん低い数値なので、精白米の第一制限アミノ酸はリジンとなり、そのアミノ酸スコアは61となります。
アミノ酸スコアの計算をさらに詳しく
なお、ここでは「たんぱく質1gあたり」のアミノ酸評点パターンを用いましたが、「窒素1gあたり」のアミノ酸評点パターンもよく用いられます。
様々な食品についてアミノ酸スコアを具体的に計算する方法の詳細については、こちらの記事を参考にしてください。
アミノ酸スコアの手計算のやり方と、資料によって数値が異なる理由
また、コピペだけでアミノ酸スコアを自動計算するツールもあります。
アミノ酸の桶とは
食品のアミノ酸スコアが低いと、どのような問題があるのでしょうか?
上のアミノ酸評点パターンによると、成人の場合、たんぱく質1gあたりヒスチジンが16mg以上、イソロイシンが13mg以上、ロイシンが19mg以上、リジン(リシン)が16mg以上…含まれているのが理想的です。
ところが、これらのアミノ酸のうちどれか1つでも不足していると、他のアミノ酸の利用率もそれに応じて下がってしまうのです。
ごく単純化して言うと、リジン(リシン)が60%しかなかったら、他のアミノ酸も60%程度しか利用されず、残りの40%は無駄になってしまうのです。
たとえて言うと、100台の自動車を製造するには、ハンドル、フロントグラス、アクセルペダル、ブレーキペダルなど、すべての部品が少なくとも100個以上そろっていなければなりません。
ところが、もしブレーキペダルが60個しかなければ、他の部品がすべて100個以上そろっていても、60台の自動車しか組み立てられません。
これと同じようなたとえとしてよく使われるのが、「アミノ酸の桶」と呼ばれるものです。
桶のそれぞれの板が各アミノ酸、板の高さがアミノ酸スコアとすると、その桶に入る水の量はいちばん背の低い桶板に当たるアミノ酸によって制限されてしまう、というものです。
食品のアミノ酸スコア
たんぱく質から摂取したアミノ酸が無駄なく効率的に利用されるためには、各アミノ酸が偏りなく含まれていることが必要です。
理想はアミノ酸スコアが100となることです(良質たんぱく質)。
代表的な食品たんぱく質のアミノ酸スコアは以下のとおりです(学齢期前2~5歳)。
食品 | アミノ酸スコア | 第一制限アミノ酸 |
---|---|---|
精白米 | 61 | リジン |
薄力粉 | 42 | リジン |
大豆 | 100 | |
みそ | 91 | トリプトファン |
アジ | 100 | |
サケ | 100 | |
サンマ | 100 | |
マグロ | 100 | |
アサリ | 84 | トリプトファン |
牛サーロイン | 100 | |
豚ロース | 100 | |
ソーセージ | 97 | トリプトファン |
卵 | 100 | |
牛乳 | 100 |
大豆や魚介類、肉類や卵、乳製品などはアミノ酸スコアが100のものが多いです。
と言っても、これらの食品ばかり食べていては、アミノ酸は十分かもしれませんが、他の栄養素(糖質、ビタミン、ミネラル、食物繊維など)に偏りが出てしまいます。
ですので、穀類や野菜類などもバランスよく摂取することが大切です。
精白米はリジン(リシン)は少ないですが、他のアミノ酸は十分です。逆にアサリや味噌などは、トリプトファンが少ないです。
これらの食品を組み合わせれば、お互いの不足を補い合うことができ、アミノ酸の利用効率を高めることができます。
どれか1つの栄養素や食品に着目するのではなく、様々な種類の食品をバランスよく摂取することが、結局最も効率のよい食事になります。
アミノ酸スコアについての注意
アミノ酸スコアについては、いくつかの注意点があります。
同じ食品でも大人か子供かによってスコアが変わる
このアミノ酸スコアはあくまでも学齢期前2~5歳の場合です。成人の場合は、精白米や薄力粉、アサリなどのアミノ酸スコアはすべて100になります。
この理由は、成人と子供とでは必須アミノ酸の要求量が違い、したがってアミノ酸評点パターンの数値が異なっているからです。
例えば、リジン(リシン)のアミノ酸評点パターンは、学齢期前2~5歳は58、成人は16です。一方、精白米に含まれるたんぱく質1gあたりのリジンの含有量は約35~6mg程度です。
すると、学齢期前2~5歳にとっては充足率は61%程度ですが、成人にとっては100%を超えます。
しかし、1985年、FAOやWHOなどの委員会において、学齢期前2~5歳の基準を、乳児を除く全ての世代に対して適用するのが妥当だとされました。
そのため、成人であっても、アミノ酸スコアは学齢期前2~5歳の数値から求められたものが用いられています。
いずれにせよ、学童期前でも成人でも、バランスの良い食生活を心がけるべきだという結論に変わりはありません。
単品で食べたときのみバランスが良い
アミノ酸スコアは、あくまでも食品単品で見た場合のアミノ酸のバランスの良さを表しています。
ですので、卵(アミノ酸スコア100)を食べても、同時に白米(同61)を食べれば食事全体のアミノ酸バランスは崩れます。
バランスだけを評価していて、量については無視している
また、アミノ酸スコアはあくまでもアミノ酸のバランスの良さだけを表した指標に過ぎません。
大豆はアミノ酸スコア100で、精白米はアミノ酸スコア61です。
しかし、これは大豆1粒を食べれば十分、という意味ではもちろんありません。
「大豆はたんぱく質1g当たりでは、すべての必須アミノ酸がバランスよく十分に含まれている」ということに過ぎません。
大豆1粒よりもご飯茶わん1杯の方が、絶対量としてはより多くのたんぱく質・アミノ酸が摂取・利用できることは明らかです。
しかし、アミノ酸スコアでは、大豆は1粒でも100となり、ご飯は茶わん何杯でも61です。
これらの注意点を踏まえた上で、各食品のアミノ酸スコアを参照にして、バランスの良いアミノ酸摂取を心がけるとよいと思います。
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