ダイエットや美容や健康・ヘルスケアにおいて、糖質やアミノ酸の代謝に欠かせないビタミンB1は非常に重要なビタミンとして知られています。
また、アルコールの代謝にも深く関わっており、お酒好きの人にとっても欠かせないビタミンです。
そんなビタミンB1の働きや食べ物、欠乏症や過剰症、アルコールとの関係などについて、簡単にまとめてみました。
ビタミンB1とは
ビタミンB1は、主に糖質やアミノ酸の代謝や神経の働きに関わるビタミンです。
豚肉に特に豊富に含まれ、他に魚介類やナッツ類、きのこ類、大豆製品や穀類に多く含まれます。
ビタミンB1の成分名はチアミンといいます。
糖質は、最終的に体内で二酸化炭素と水に分解されますが、そのときにエネルギーが発生します。私たちはそのエネルギーによって活動を行なっています。
ビタミンB1(チアミン)は、この「糖質→二酸化炭素+水」と分解される過程において、補酵素として働きます。
そのためビタミンB1が不足すると、エネルギーを産生することができなくなります。
その結果、糖質をエネルギー源とする脳や神経が影響を受け、脚気やウェルニッケ脳症などの病気にかかってしまいます。
ビタミンB1は水溶性のため、水に溶けやすく、調理によって失われやすい特徴があります。その一方で、水に溶けやすいことから、体内に蓄積しにくく、過剰症のおそれはほとんどありません。
ただし、体内に蓄積しにくいことから、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)のような「食いだめ」が効かないため、毎日しっかり摂取することが必要です。
チアミン(ビタミンB1)の構造式は以下のようになっています。
ビタミンB1の働き
ビタミンB1は、糖質の代謝経路において補酵素として働き、糖質からのエネルギー産生や神経組織の正常な働きに必要なビタミンです。
ビタミンB1の成分名はチアミンといいます。体内に吸収されるとリン酸と結合し、チアミンピロリン酸(TPP)になります。
この代謝経路には解糖系とクエン酸サイクル(TCAサイクル)の2つがあります。
まず、解糖系により、糖質(ブドウ糖)はピルビン酸に作り変えられます。ピルビン酸はさらにTCAサイクルに入り、アセチルCoAを経て、最終的に二酸化炭素と水に分解されます。
この過程で生み出されるエネルギーが、私たちの身体活動に用いられているのです。
チアミンピロリン酸(TPP)は、この過程で補酵素として、これらの代謝経路が正常に働くのを助けます。そのため、ビタミンB1が不足すると、エネルギーも産生されなくなり、糖質をエネルギー源とする脳や神経が影響を受けます。
その結果、脚気やウェルニッケ脳症などにかかってしまいます。
脚気の症状としては、全身倦怠、体重低下、四肢の知覚障害、腱反射消失(座った状態で膝を叩いても反応しない)、心不全などがあります。
ウェルニッケ脳症の症状としては、眼球運動障害、歩行困難、意識障害などがあります。
脚気と日本人
脚気は精白米を食べる日本人に特に多かった病気で、食欲不振や疲労感、腱反射消失、末梢神経の炎症、浮腫、心臓障害などさまざまな症状を引き起こします。
日本では特に江戸時代に、白米食が流行した貴族や武士など上流階級を中心に脚気が広まりました。
脚気はビタミンB1不足で起きる病気なので、玄米食に切り替えたり、蕎麦を食べることなどで、速やかに解消されます。
このことは、江戸時代の人たちにも経験的に知られていたため、漢方では脚気の療法として用いられていました。
脚気を予防できることから、江戸を中心に蕎麦が食べられるようになり、東京を中心とする蕎麦文化が関東圏に定着したという説があるようです。
ビタミンB1とアルコールの関係
また、ビタミンB1は、糖質のみならず、アルコールの代謝にも深く関わっています。
体内に取り込まれたアルコールは肝臓で、アセトアルデヒドを経て酢酸にまで分解されます。
通常、アルコール脱水素酵素(ADH)によりアルコールからアセトアルデヒドに分解され、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により、アセトアルデヒドが酢酸に変化します。
しかし、大量にアルコールを摂取したときには、これらの酵素だけでは間に合わないため、他の酵素がアルコール代謝を分担するようになります。
その代謝の際に、ビタミンB1が大量に消費されるのです。それ以外にも、お酒に含まれるアルコール以外の糖質を代謝するのにもビタミンB1が消費されます。
そのため、大量に飲酒すると、ビタミンB1が大量に消費され、欠乏するようになります。ですので、飲酒は適量に抑え、過度の飲酒は避けましょう。
また、アルコールの摂取量が増えると、ビタミンB1に限らず、ビタミンB2やナイアシン(ビタミンB3)やビタミンB6など、他のビタミンB群の必要量も増大しますので、合わせてバランスよく摂る必要があります。
ビタミンB1を多く含む食品
ビタミンB1は豚肉に特に豊富に含まれ、他には魚介類やナッツ類、きのこ類や大豆製品、そして穀類に多く含まれます。
穀類は、色の白いものよりも黒っぽいものの方が豊富に含まれます。
黒っぽい部分というのは、外皮や胚芽の部分です。ビタミンB1はこの部分に多く含まれるのです。逆に、白い部分というのは、胚乳の部分で、主にでんぷんからなり、ビタミンB1をほとんど含みません。
具体的には、白米より玄米、白いパンよりも黒っぽい全粒粉やライ麦のパンの方が、ビタミンB1を遥かに豊富に含みます。逆に白米や白いパンは、ビタミンB1をほとんど含みません。
なお、ビタミンB1を豊富に含む食品の、可食部100グラムあたりの含有量(mg)は以下のとおりです。
豚ヒレ肉 1.32mg
豚ロース赤肉 0.80mg
豚もも赤肉 0.96mg
ウナギ蒲焼 0.75mg
タラコ 0.71mg
ブリ成魚 0.23mg
ひまわりの種(フライ味付け)1.72mg
カシューナッツ
ピスタチオ(炒り)0.43mg
ピーナッツ(炒り)0.23mg
ごま(炒り)0.49mg
えんどう豆 0.72mg
いんげん豆 0.50mg
大豆 0.71mg
生湯葉 0.17mg
おから(生)0.11mg
ひらたけ 0.40mg
えのきたけ 0.24mg
しいたけ(生)0.13mg
蕎麦(乾)0.37mg
玄米 0.41mg
胚芽精米 0.23mg
全粒粉(強力粉)0.34mg
主食は1日の食事でいちばん多く摂るものなので、主食を玄米食や全粒粉パン、ライ麦パンなどに切り替えることで、十分なビタミンB1が摂れます。
純粋な玄米が苦手な場合は、白米に一部混ぜたり、胚芽精米にするだけでも、大幅に摂取量を増やすことができます。
ちなみに、ダイエットに非常に有効なこういう玄米の食べ方もあります。
ビタミンB1の1日あたりの推奨量、耐容上限量
ビタミンB1の1日あたりの推奨量(mg)
男性
18~29歳 1.4mg
30~49歳 1.4mg
50~69歳 1.3mg
70歳以上 1.2mg
女性
18~29歳 1.1mg
30~49歳 1.1mg
50~69歳 1.0mg
70歳以上 0.9mg
(妊婦は+0.2、授乳婦は+0.2)
玄米ご飯を茶碗一杯(150グラム)で0.24mgのビタミンB1が摂れますので、主食を玄米食に切り替えるだけでも、1日分の必要量の大半を補うことができます。
偏食せず、豚肉や大豆製品など豆類、ナッツ類やきのこ類などをバランスよくしっかり食べていれば、欠乏する心配はまずありません。
ただし、お酒ばかり飲んでいたり、麺類ばかり食べたりなどの極端な偏食をすれば、糖質を大量に摂取する一方でビタミンB1はほとんど摂れないため、欠乏症に陥る可能性は高くなります。
ビタミンB1の耐容上限量と過剰症
ビタミンB1は水溶性のため、必要以上に摂取した分は、速やかに尿中に排泄されます。そのため、過剰症のおそれはほとんどなく、耐容上限量も特に設定されていません。
ビタミンB1の上手な摂り方
ビタミンB1は水溶性で、熱にも弱いので、調理によって失われやすいビタミンです。そのため、長時間水にさらしたり、加熱し続けることは禁物です。手早くさっと調理するとよいです。
また、水に溶け出すことから、汁ごと食べられる煮物や、水への流出の心配のない炒め物などの料理にするのがおすすめです。
特に、炒め物はおすすめです。と言うのも、炒め物は油を使いますが、ビタミンB1は脂質の代謝には関わらず、また脂質は糖質の代わりにエネルギーとなってくれますので、ビタミンB1の消費を抑えることができるからです。
また、炒め物の場合、ニンニクやニラ、ネギやタマネギなどと一緒に調理すると、ビタミンB1の吸収効率が上がります。
これらの野菜に含まれる独特の香り成分であるアリシンは、ビタミンB1と結合することでアリチアミンに変わります。このアリチアミンは非常に吸収がよく、速やかに疲労回復効果を発揮できるのです。
ちなみに、疲労回復の栄養ドリンク「アリナミン」の名称は、このアリチアミンに由来するのだそうです。
なお、これら栄養ドリンクには、たいていビタミンB1とともにビタミンB2も含まれています。
栄養ドリンクは、エネルギー代謝を活性化することで、速やかにエネルギーを得るものです。なので、脂質・たんぱく質・糖質などの三大栄養素の代謝に関わるビタミンB2は、ビタミンB1と並んで非常に重要な働きをします。
ビタミンB2の働きや効果、食べ物や飲み物、過剰摂取や欠乏症について
ビタミンB1の欠乏症・過剰症まとめ
ビタミンB1は糖質やアミノ酸の代謝に欠かせないビタミンです。ビタミンB1が欠乏したり過剰になったりすると、以下のような症状を引き起こします。
ビタミンB1の欠乏症
脚気(倦怠感、疲労感、腱反射消失、抹消神経炎、浮腫、心臓障害など)
ウェルニッケ脳症(眼球運動のまひ、歩行困難、意識障害など)
ビタミンB1の過剰症
ビタミンB1は水溶性のため、余った分は蓄積せず、尿を経て速やかに体外へ排出されます。そのため、過剰症の心配はほとんどありません。
10グラムのビタミンB1(チアミン塩酸塩)を2週間半の間、毎日飲み続けたところ、頭痛やいらだち、不眠、速脈、脆弱化、接触皮膚炎、かゆみなどの症状が現れたという報告があるようです。
ただし、摂取を中止したら、2日間で症状が消えたとのことです。
なお、通常の食品で可食部100グラムあたり、最も多くビタミンB1を含むとされる豚ヒレ肉でも、せいぜい1ミリグラム程度です。
なので、通常の食生活を送っている限りは、過剰症になる恐れはほぼないと考えてよさそうです。
ビタミンB1まとめ
ビタミンB1について、以下に簡潔にまとめます。
ビタミンB1の主な働き
糖質の代謝
正常な神経機能の維持
疲労回復
ビタミンB1を多く含む食品
動物性
豚肉(ヒレ、ロース赤肉など、脂肪より赤身に多く含まれる)
魚介類(ウナギ蒲焼、タラコ、ブリなど)
植物性
ナッツ類(カシューナッツ、ピスタチオなど)
きのこ類(ひらたけ、えのきたけなど)
豆類(大豆、えんどう豆、いんげん豆など)
穀類(玄米、全粒粉、胚芽精米など、外皮や胚芽を残したもの)
ビタミンB1の1日あたりの推奨量
男性
18~29歳 1.4mg
30~49歳 1.4mg
50~69歳 1.3mg
70歳以上 1.2mg
女性
18~29歳 1.1mg
30~49歳 1.1mg
50~69歳 1.0mg
70歳以上 0.9mg
(妊婦は+0.2、授乳婦は+0.2)
耐容上限量は特に設定されていません。
ビタミンB1を食べ物から上手に摂る方法
ビタミンB1は水溶性で熱に弱いので、長時間水にさらさず、長時間火を通さないこと。
調理した汁ごと食べるか、水を使わない炒め物などがよい。
特にニラ、ニンニク、ネギ、タマネギなどと一緒に調理すると、速やかに吸収され、疲労回復効果も高い。
↓↓各ビタミンの働き、多く含む食べ物や食べ方、欠乏症や過剰症などについて
脂溶性ビタミン
ビタミンAとβカロテン、抗酸化作用
ビタミンDと骨、カルシウム
ビタミンEと過酸化脂質、抗酸化作用
ビタミンKと骨、血液凝固、新生児
水溶性ビタミン
ビタミンB1とアルコール
ビタミンB2と脂質の代謝
ナイアシン(ビタミンB3)とアルコール、トリプトファン、抗酸化作用
ビタミンB6とアミノ酸、つわり、月経前症候群
葉酸と妊娠、DNA、動脈硬化
ビタミンB12と葉酸の関係、欠乏症、吸収消化の特徴
パントテン酸と糖質・脂質の代謝、神経伝達、善玉コレステロール
ビオチンと卵白、アトピー、血糖値、胎児
ビタミンCと抗酸化作用、コラーゲン、ストレス、鉄分の吸収